ラウンドテーブル1:
遠隔共同とサイトスペシフィックなアート実践

「国境をまたぐ移動をせずに国際協働創作は可能か?」という問いからスタートしたテラジアは、テキストメッセージやビデオ会議を通じてオンラインで交流し、お互いの作品を見て感想を交換し、新しい作品のアイデアを議論し、発展させてきました。また、オンラインイベントやプレゼンテーションを通じて、新たなアーティストを迎え入れ、2022年9月まで、《遠隔》のコミュニケーションと協働のみによって進化してきました。

一方、作品の実際の制作と発表は、主にアーティストの都市や地元で、現地の観客のために、その社会的文脈の中で行われてきました。東京の寺院であれ、チェンマイの寺院であれ、作品には《サイトスペシフィック》な要素が色濃く反映され、それらが最終的には字幕付きでオンラインで共有され、世界の他の地域の集団メンバーや観客に鑑賞されてきました。上演を重ねるごとに、異なる土地で、異なるアーティストが、同じコンセプトに基づく作品を自由な発想で制作し続けることによって、プロジェクトは新たな出会いとともに刻々と変化し続けてきたのです。

その活動のあり方を、私たちは仏教の言葉を借りて「輪廻転生」と呼んでいます。まるで人の魂が繰り返し、死んでは新しく生まれ変わるように、各作品は破壊され、別の場所、まったく別の形で再創造されます。

このラウンドテーブルの前半では、テラジアという《遠隔》かつ《サイトスペシフィック》なコレクティブの実践を、テラジア発足時から参加してきたメンバーと、ジャカルタを拠点に活動するアーティストの双方の視点から具体的に概観します。後半では、インドネシア各地に点在する多文化のアート・コミュニティにおいて、これらの遠隔協働のネットワークと経験を活用する可能性について議論します。

登壇者:
渡辺真帆(ドラマトゥルク/テラジア・コレクティブ-日本)
ナルモン・タマプルックサー(演出家/テラジア・コレクティブ-タイ)
イルワン・アーメット

モデレーター:
ユスティアンシャ・ルスマナ(テラジア・コレクティブ-インドネシア)

[概要]
- ジャカルタ
会場:コムニタス・ウタン・カユ - Teater
日時:2024年1月13日 14:00-16:00
言語:インドネシア語と英語

渡辺真帆

Maho Watanabe

通訳者・翻訳者、ドラマトゥルク。東京外国語大学アラビア語専攻卒業。パレスチナ・ヨルダン川西岸地区留学中に演劇と出会い、坂田ゆかり演出『羅生門|藪の中』に通訳・翻訳で参加。以降、舞台芸術の国際共同制作や来日公演、ワークショップに通訳・字幕翻訳・コーディネート等で関わる。ガンナーム・ガンナーム作『朝のライラック』の翻訳で第12回小田島雄志・翻訳戯曲賞受賞。中東・アジア各地に赴きながら、芸術、メディア、国際協力など多分野の人と言葉と協働する。『テラ』初演(2018)からドラマトゥルクで参加し、2020年5月、タイのゴップらと共に「テラジア」発足にかかわる。2022年度ACC(アジアン・カルチュラル・カウンシル)フェロー。

ナルモン・タマプルックサー (愛称:ゴップ)

Narumol (Kop) Thammapruksa

パフォーマー・演出家・プロデューサー。チェンマイを拠点に、演劇をツールとしてソーシャル・アクティビズムに取り組む。1997年、インドネシア・ニューヨーク・台湾・インドなどの演劇人と「International WOW Company」を設立。World Artist for Tibet、Arts Against War、ニューヨークダンスシアターの「メコンプロジェクト」など、様々な芸術イベントの芸術監督、コーディネーターを務める。野田秀樹作・演出『赤鬼』(97年初演 シアタートラム)出演。2005年アジア現代演劇コラボレーション『ホテル・グランドアジア』出演。『モバイル』(2007年 ネセサリーステージ制作 シアタートラム)出演。2014年、劇団印象『匂衣』(鈴木アツト演出)出演。チェンマイ大学マスコミュニケーション学部演劇プログラム講師。

イルワン・アーメット(デザイナー、ビジュアル/パフォーマンス・アーティスト)

Irwan Ahmett

ジャカルタを拠点に活動。環太平洋火山帯における地政学的な対立を表した長期プロジェクトに取り組んでいる。この地域は、自然災害の影響を最も受けやすいだけでなく、暴力のトラウマも抱えている。学際的なレジデンシーおよび研究プログラムへの参加のため、高い移動性を芸術活動の軸に置き、逆説的な領域で自らを表現する。また、進化の視点から地球への不安に答えを見つけ、人類、不公正、生態学に関連する作品制作に取り組む。
2018年以来、定期的に北方巡礼を行い、北ジャカルタの海岸沿いを歩いて受けた影響から、人間中心主義の津波、道徳的な貧困状況、工業志向の人々によって浸された未来の空間と向き合った。旅を終え、直感的に魂が解放される特定の土地を再訪。ジャカルタ市の土地、水、空気に刻み込まれた不潔さに対する不安を表現し、介入していく。

ユスティアンシャ・ルスマナ

Yustiansyah Lesmana

ジャカルタを拠点に活動する舞台芸術ディレクター、映像作家、ビジュアル・プログラマー。舞台芸術の共同制作のためのオープン・プラットフォーム「テアター・ガンタ」と活動するほか、パフォーマンス研究コレクティブ「コリドー・ミリン(斜めの廊下)」の発足人の一人でもある。作品はインドネシア各地の他、海外でも上演されている。 2017年以来、地域や国をまたがる芸術協働のモデルに関心をもち、これまでインドネシア・ドラマツルギー・カウンシル、APAF-アジア舞台芸術人材育成部門に参加。テラジアでは2022年より活動。分野、地域、メディア、世代を超えた多様なアーティストらと、様々な形で協働しプロジェクトを行っている。2013年と2014年、ジャカルタ演劇祭でジャカルタ・アーツ・カウンシル最優秀演出家賞を2年連続受賞。現在はジャカルタ・アーツ・カウンシル演劇委員とアーカイブ・コレクション委員を務める。