2020年、COVID-19の世界的流行以来、人々はソーシャル・ディスタンスを心がけながら日々を過ごすようになりました。ヒトを媒介して感染する、見えないウイルスの侵入から身を守るために、不要不急の外出や都市間の移動が制限される一方で、オンラインのコミュニケーションは一層加速しました。この現実に、新しい時代の到来を直感した人は少なくないようです。そのような急激な変化の中でひそやかに産声をあげたのが《TERASIA》という演劇プロジェクトです。
TERASIAは今のところ、タイ、ミャンマー、インドネシア、日本の4チームからなるアーティスト・コレクティブです。「人が動けないなら作品に旅をさせよう」というアイディアのもと、2018年に東京で初演された『テラ』という演劇作品を、アジア各地で次々に作り変え、上演していきます。
『テラ』は、話芸や音楽を用いながら、パフォーマーと観客がひとつの場を共有するうちに、現代人の信仰や死生観が浮かび上がってくるような作品です。
-わたしたちは何者か。
-何を信じ、どこに向かうのか。
-生きるとは、死ぬとは?
そんな普遍的な問いに向き合いつつ、それぞれのチームは上演する土地の人々と出会いながら、その価値観や歴史を反映した新しい『テラ』を、自由な発想によって創作します。
このウェブサイトは、TERASIAの国際共同プロセスを公開し、多言語で展開するためのプラットフォームです。プロジェクトに参加するメンバーたちが、遠隔での創造的交流によって何に出会い、何を発見するのか。それは、時間とともに「目に見える形」となって仮想空間に集積されていきます。
一方で、人と人との接触のあり方がダイナミックに変容する今、わたしたちはTERASIAを通して、「目に見えないもの」を探求する実験を続けます。言い換えれば、この旅の目的は、文化の違いを超えて共有される人間のコアに迫ることであり、最終地点でリアルに集い会うことができる日を切に望みながら進んでいきます。
演出
坂田ゆかり
1987年東京生まれ。東京藝術大学音楽環境創造科卒業後、全国の劇場で舞台技術スタッフとして研鑽を積む。2014年、アルカサバ・シアター(パレスチナ)との共同創作『羅生門|藪の中』を演出(フェスティバル/トーキョー14)。近年は展覧会という形式に演劇の技術や考え方を応用させる実験を重ねている。建築家ホルヘ・マルティン・ガルシアとの長期プロジェクト『Dear Gullivers』は、第16回ヴェネチア建築ビエンナーレ(2018)のスペイン館に参加。既存の物語と協働を手段として、地域社会への芸術的介入を試みる。
出演
稲継美保
1987年生まれ。俳優。東京藝術大学在学中より演劇を始め、舞台を中心にフリーランスで活動中。これまでに、岡崎藝術座、サンプル、チェルフィッチュ、ミクニヤナイハラプロジェクト、バストリオ、オフィスマウンテン、東葛スポーツなどの作品に出演。また、2019年にはポーランドとの国際協同製作で演出家マグダ・シュペフト「オールウェイズカミングホーム」に出演するなど、国内外問わず幅広い役柄をこなし、枠にとらわれない活動を行っている。
坂田ゆかり演出作品では、「BOMBSONG」(2008)、「プロゼルピーナ」(2009)、「ハイル・ターイハ」(2017)、「テラ」(2018)に出演している。
音楽
田中教順
1983年生まれ。ドラマー・パーカッショニスト/作曲家。東京藝術大学在学中より演奏活動を行う。
ジャズミュージシャン菊地成孔主宰のdCprG等で活動後、博士号を取得(学術)し、現在「抱きたいリズム」をモットーに世界を旅するリズム大好き大学職員。自身のユニット「未同定」やラテン・ジャズバンド「Septeto Bunga Tropis」などで演奏活動を行っている。
近年はミャンマーの打楽器を主体とした伝統音楽「サインワイン」の研究・習得をミャンマーの国立文化芸術大学にて行っている。ミャンマー音楽の研究で令和2年度科研費若手研究にも採択。
坂田ゆかり演出作品への参加は「テラ」(2018)が初。2019年には本作でチュニジア公演も経験。
ドラマトゥルク
渡辺真帆
1992年埼玉県生まれ。通訳者・翻訳者。東京外国語大学アラビア語専攻卒業。パレスチナ・ヨルダン川西岸地区留学中に演劇と出会い、坂田ゆかり演出『羅生門|藪の中』に通訳・翻訳で参加。以降、舞台芸術の国際共同制作や来日公演、ワークショップに通訳・字幕翻訳・コーディネート等で関わる。ガンナーム・ガンナーム作『朝のライラック』の翻訳で第12回小田島雄志・翻訳戯曲賞受賞。中東・アジア各地に赴きながら、芸術、メディア、国際協力など多分野の人と言葉と協働する。
演出
ナルモン・タマプルックサー
(コップ)
パフォーマー・演出家・プロデューサー。チェンマイを拠点に、演劇をツールとしてソーシャル・アクティビズムに取り組む。1997年、インドネシア・ニューヨーク・台湾・インドなどの演劇人と「International WOW Company」を設立。World Artist for Tibet、Arts Against War、ニューヨークダンスシアターの「メコンプロジェクト」など、様々な芸術イベントの芸術監督、コーディネーターを務める。野田秀樹作・演出『赤鬼』(97年初演 シアタートラム)出演。2005年アジア現代演劇コラボレーション『ホテル・グランドアジア』出演。『モバイル』(2007年 ネセサリーステージ制作 シアタートラム)出演。2014年、劇団印象『匂衣』(鈴木アツト演出)出演。
<コメント>
アートは病気のように「伝染」できるでしょうか? 何を介して、どのような形態で、いかなる経路で広がるでしょうか? アーティストは「キャリア」になることができるのか? 伝染したアートは変異するのか? どんな変異が起きるのか? 時間と共に、また新しい空間でどのように進化するのか? アートが文化を超えて伝染するとき、言語や信仰、アイデンティティの壁を崩すことができるのか? 人間の本質、共通の価値を明らかにできるのか? 世界的な健康危機において、アートの感染はどのように社会に貢献できるのか?…頭の中を巡るたくさんの問いを、この旅を通して探って行きます。
音楽
トルポン・サメルジャイ
チェンマイ大学芸術学部タイ芸術専攻卒業。北タイ伝統音楽の演奏家としてワークショップ開催や専門書編集に携わりながら、現代音楽と伝統音楽を融合した音楽を制作する。2019年、米リッチモンド大音楽学部主催のフェスティバル”Contested Frequencies: Sonic Representation in the Digital Age”でダンサー・振付家のWaewdao Sirisookと共作のマルチメディア・パフォーマンス「Lanna Dream. The Tourist Gaze in Northern Thailand」を発表。北タイのラーンナー音楽にまつわるエキゾチシズムを批評する音楽を作曲・演奏した。現在はチェンマイ大芸術文化振興センターでアカデミック・アーツ・オフィサーを務める。